シンプルなウェブサイトは使いやすく、分かりやすく、そして読みやすいものです。しかし実際には、使えないか、醜くて、そして一般的に難しい単語がびっしり詰まったようなものを多く見かけます。どうして、デザイナーたちは、シンプルな仕事をすることにこんなに苦心するのでしょう。
クリエイティブなプロセスの終着点としてのシンプルさとは「究極の洗練」だとダヴィンチは言いました。シンプルさを実現することは、ウェブデザインだけでなく、どの分野でも(芸術でも、ビジネスでも、スポーツでも、科学でも)難しいことです。しかしウェブサイトのシンプルさというのは、一方で紙面から派生したグラフィックデザインとウェブのユーザビリティが、そして他方ではマーケティング・ランゲージとユーザーの期待が常にせめぎ合いを続けている、という意味で独特の難しさがあります。
グラフィックデザイン vs ユーザビリティ
第一に、HTMLとテーブル構造はグラフィックを見せるように意図して作られたものではありません。テキストのためのものです。そのため、もうすでにその技術的性質からも、インターネットはデザイナーにとって厳しい場となっているのです。
ウェブサイトの作成現場では、密かな戦いが巻き起こっている。(中略)ユーザビリティ専門家と、グラフィックデザイナーの間の戦いだ。 Curt Cloninger, A List Apart
ここでFlashは問題を増やしこそすれ、解決策にはなりません。Flashは使いこなすのが難しく、サーチエンジン対策も困難で、そして管理が難しく、さらに現在のコンポーネントと合わせることも非常に困難です。デザイナーはFlashを好みますが、ユーザーは違います。もちろん、きちんと使いこなせれば、Flashはすばらしく役に立つものですが。
テーブルレスCSS以降、状況は良くなってきています。CSSはタイポグラフィやグラフィックデザイン寄りに作られているためです。しかし、デザインとユーザビリティとの間の葛藤は技術的な領域にとどまりません。
ウェブデザイナーを縛るユーザビリティのルール
ウェブデザイナーは、まずウェブサイトがきちんと機能するための色々なルールに制約を受けます。例えば、リンクは認識しやすいようにアンダーラインを引くか、色を変えるか等の工夫が必要だったり、ロゴは左上の角に配置しなければならないとか、フォントは大きくてスケーラブルフォントでなければならない(英語/近日翻訳公開)、画像は少なめの方が望ましい、テキストはブロックで表示するより少量ずつフラグメントにした方が良い、等々。
ブランディング vs ユーザビリティ
上述のようなユーザビリティ上の制約によりウェブ上のデザインは紙面のデザインと大きく異なり、また様々な点で難しさを増します。そして、そういった多くの面で企業のコーポレートデザインマニュアルは、これらの制約と矛盾をおこします。コーポレートデザイナーというのは往々にして社内でも年長の、そしてウェブになじみのないスタッフによって担われているため(英語/近日翻訳公開)、コーポレートデザインの大切な部分が、ウェブ上では欠けてしまったり、また紙面ベースのものとテイストが異なってしまったりという事態が見受けられるようになります。
ブランディング vs ユーザビリティ=アイデンティティ vs 規格
ブランディングとユーザビリティの間で起こる矛盾はまた、アイデンティティと規格の問題と言い換えることができます。強いアイデンティティとは何よりも、他と違っていて、認識しやすく、大胆でなければならず(英語/近日翻訳公開)、しかし良くできたウェブサイトは画一的になりやすいものです。ですが、良くできたウェブサイトでは、インターフェイスを通じてアイデンティティが創造されていくのです。
矛盾するパラメータの統合としてのシンプルさの実現
こういったそれぞれに矛盾する原則の中で、軸のぶれないものをつくるというのは難しい作業です。しかし一方で、オンライン上のブランド・エクスペリエンスは使いやすさによって大きく左右されます。面倒なくウェブサイトを利用することができれば、ユーザーは良いブランド・エクスペリエンスを得ることになります。そこでウェブサイトのトップ部分が一貫してコーポレートデザインに従って仕上げられていれば、それは成功です。ですから、基本的に、ウェブ上でのアイデンティティがコーポレート全体のコア・アイデンティティに通じるものであれば、ユーザビリティとブランディングの間に矛盾は起きないわけです。もちろん、オンライン及びオフライン上でのアイデンティティを創造するスタッフはインタラクティブ・メディアの性質を良く理解していなければなりません。言い換えるなら、オンライン・アイデンティティとはロゴの大きさや場所ではなく(これはどちらかというともはや前提条件です)、誰が、何を言っているのか、ということの方が重要であり、またどんな言葉や、画像を使うかという方が、どこにそれらを配置しているかということより重要です。そして実際、これはいかなるコーポレート・アイデンティティにとってもここが評価点となるのです。オンラインでも、オフラインでも。
新しいデザインの原則
クリエイティブな人々は決まりに縛られることを嫌います。しかし、多くの決まり事を生み出すシステムは多くありますが、創造性をかき立てるようなルールはそうありません。1994年以降、そしてとりわけテーブルレスCSS以降、ウェブデザインは目覚ましい進化を遂げました。そして新しく独自のグラフィック上の原則や、真理を生み出してきました。
- レイヤーやカラーでなく、明るさでデザインすること
- 静的なものより、ダイナミックなグリッドを作り出すこと
- レンダリングの善し悪しに負けないフォントを選ぶこと
- ビジュアル面では、瞬間で把握出来るような垂直的ヒエラルキーを組み立てること
多弁 vs 明瞭さ
ウェブサイトは可能な限りシンプルでなければなりません。最小限の手段で最大限の効果を得られるところまでのシンプルさ。それを超えてシンプルにしてもいけません。コピーライターは、マーケティング担当者が話すことを明瞭で、シンプルな言葉に直します。シンプルさを実践することが彼の日々の仕事なのです。しかしこの原則は往々にして、だらだらとうるさくて内容の薄いメッセージを垂れ流しがちな、ありがち企業広告と衝突します。しかし、ここでもまた、ウェブサイトは古くさい慣習の健康的治療法となるのです。優れたウェブサイトは面白さもあります。その理由は、ユーモアはコミュニケーション上最高の武器だからです。
知識をつけ続ける顧客の中で、またあらゆるものが加速し、希薄化していく時間の中で声を上げるためには、確実に、強力なコミュニケーションが必要です。強力なコミュニケーションとは、誠実で、まっすぐで、ユーモアに富んだコミュニケーションです。
紙面にはグレー・ノイズ。スクリーンには不要。
紙面のパンフレットは、テキストがびっしり詰まっているものと考えられています。そのため、ライターはとにかく、内容の薄い文章をせっせと書いてページを埋めます。そしてその結果、誰も読まないパンフレットが出来上がります。パンフレットだけではありません。ファッション雑誌や新聞等も、そういった薄っぺらい文章に埋め尽くされています。テレビだって、途方もなくつまらない番組がびっしりで、今にも破裂しそうです。消費者の興味など、関係ないのでしょう。まるで、世界をグレーのノイズで隙間なく塗りつぶすことに一生懸命になっているようです。
一語一語に魂を込めて
ウェブサイトでは、一語一語を慎重に魂を込めて扱わなければなりません。一語余計な言葉を入れるたびに、読者の数は減っていきます。しかしながら、うまくシンプルでいられれば、もちろん、シンプルになりすぎず、またセンセーショナルにもならない程度にですが、そうすれば読者を引きつけられる確率は格段に上がります。
シンプルさとは、つかみとるもの
もちろん、シンプルさといっても簡単に実現できるものではなく、これはたゆまぬ努力と集中力、そして真剣な仕事の先に得られるものです。自分自身のやっていることが分かるひとだけが、シンプルになることができるのです。レシピも、理想のお手本も存在しません。しかし自身がデザイナー/コピーライター/ビジネス戦略家として何をやろうとしているのかが分かっていれば、一つのことだけやればいいのです。エッセンスを残して、余計な部分をはぎ取る作業。デザイナーはシンプルさを得るために苦労します。シンプルさとは、はじめからどこかに隠れているものではなく、丹念な作業の上に作り出されるものだからです。