先週の日曜から、「はじめまして、パソコンです…はじめまして、マックです…」というTVCMが始まりました。そして、驚くべきことにこの日本版CM、海外オリジナル版と異なっているのです。マック役の男性も、そんなにイケメンではないし、PC役の男性は、「サラリーマン」です。オリジナルほど、分かりやすく、露骨な宣伝ではなくなってしまいました。日本では、どうやら控えめにいかなければならないようです。
私の妻は(日本人ですが)最初、マック氏とパソコン氏は一人二役だと考えていたようですが、どうやら違うようです。しかし、大事なのは、私の妻が残念ながらラーメンズを知らなかったと言うことではなく、日本版のCMでの二人がアメリカ版の二人よりも、似通って見えると言うことなのです。
ここでは服装は、必ずしも人柄を表すために使われているのではないようです。スーツの男性と、カジュアルな服装の男性、というのはここでは違う意味合いを持ちます。スーツは、仕事。カジュアルは、プライベートをあらわしているのです。もし、本当にクールでかっこいい男性を使いたかったら、原宿あたりでオシャレなモデル風の男性を見つけてくることはできたはずです。しかしここではあえて、質素な、フツウの、ユニクロタイプの男性が起用されています。
考えが違えば、話も違う
日本でも、「日本文化vs西洋文化」なんて話になるとなんとなくは言われている、この「謙遜の美学」的なものへの西洋人の抵抗感、本当です。人様の前で、旦那さんのことをコケにする女性、恐らく周囲はドン引きです。ありえなすぎて逆に、笑いがとれるくらいです。
つまり、日本人は「控えめ」好きです。というわけで、二人の違いはとても控えめです。しかしながら最後まで見ると明らかに、マックの方が洗練されていて、近づきやすいタイプに見えます。マック氏の口調や身振り、そして微かに挙動不審なパソコン氏への優しい対応。
日本では、例えば自分のことをあまり得意になって自慢すると嫌われます。逆に、ちょっと自分を低くするほうが相手に好まれるようです。というわけで欧米版のマックのCMは日本では反感を買ってしまうでしょうし(大人気ないですから)、こちらの日本版は、海外では理解されないでしょう。(メッセージが伝わりにくいですから)
マックがカジュアルに「ボク」、PCが「私」という一人称を使うのも印象的です。
自己抑制と洗練されたキャラクター
マック役の男性は身振りや表情を自分でコントロールしています。日本人のマナーにおいては、自己抑制と周囲の人を居心地悪くさせないことが重要です。その点では、インターネットの世界の人は日本文化から学ぶべきことは多いかもしれません。パソコン氏は始めはおとなしく、礼儀正しくしていますが、徐々にヒートアップしていきます。彼は自分の「ビジネスライクな関係」を非常に自慢にしているようです。彼の表情が物語っています。「私は(眉毛上昇)ビジネスライクな関係ばかりですから」そして最後には、興奮しすぎてマック氏の背中を一撃。酔っぱらった上司か?というなれなれしすぎな感じで。
マック氏はそのパソコン氏の無礼を気付かなかったかのようにやりすごし、穏やかな頷きで返します。
その違いを
さて、文化的な相違についての話はここまでで十分でしょう。でも、私は言いたい。「アップル社は日本人のユーモアのセンスを侮っているし、日本のマーケットではマックの一番大事なところを忘れている。」
勘違いなさらないで下さい。CMが悪いと言っているのではありません。しかし、もう一度申し上げます。日本の広告代理店は顧客を見くびり、想像力に欠け、そして時代を読めていない。私のほうが広告がうまく作れるとか言っているのではありません。ただ、広告を作るのに、対象となる顧客層のことくらいきちんと考えるべきだと言いたいのです。そうすれば、こんな馬鹿げた著作権論争だってしないで済んだはずです。スティーブ・ジョブスはPCの弱点について、ずいぶん昔にこう語っています。
この通り、私はなにも新しいことを言っているわけではありません。マックとPCの本当の違いは、テイストなのです。テイストというのは、タイポグラフィーを扱う中で、インターフェイスに現れるものです。そして、テイストは重要です。
スティーブは日本で受け入れられる
日本人(や中国人、この話においては)を説得するのに効果的な方法を考えました。マックで表示される漢字の隣に、PCの不恰好な漢字フォントレンダリングを並べれば良いのです。一目で、通用するでしょう。日本語に関して言えば、これは明らかなことです。PCのフォントレンダリングは最悪です。
タイポグラフィ的にアルファベットより複雑な漢字のPCでのフォントレンダリングは、最悪です。しかし、一目見ればこんなに明らかなことなのに、誰もこの話題に触れません。マックの優れたフォントレンダリングは、マックに有無を言わせない優位性を与えます。もちろん、それでも、CM中の会話はあくまでお行儀よく、そして控えめに。わたくし作のCMがこちらです。
- PC: からキーボードを打つ安っぽい音が聞こえる。そして、Macからキーボードを打つ心地良い音が聞こえてくる。
- PC: はじめまして。 私はPCです。
- Mac: こんにちは。 僕はMacです。
- PC: ほほー。ずいぶんと洒落たフォントをお使いですね。なんというフォントですか?
- Mac: それほどでもないよ。これはゴシックというフォントだよ。
- PC: そーでしたか。私たち、同じフォントを使っているのですね。
- Mac: そうだけど…
- PC: これは驚いた。私たち、実はものすごく似ているのかも知れませんね。ほら、今じゃどっちも”インテルインサイド”って言いますしね。
- Mac: 僕たちが似てないなんて,誰か言ってた?
- PC: よくわかりませんが、私とあなたでは、何かが違っている様な…
- Mac: そうかな?
- ただ、鮮明な文字へ…Mac。
同じフォントなのに、なにか違う
このCM、われながらいつか動いてるところを見たいものです。できれば、Windows Vistaが、新しいフォント・レンダリング・エンジンを搭載して登場する前に。マックのフォントレンダリングがPCよりスムーズだ、なんていう話を知っている人自体とても少ないのです。
パソコン氏が、駄々っ子のように、「そんなの、うそです!このデザインオタクめ!」なんて悔しそうに怒っている図が目に浮かびます。ちょっと、英語版風に言ってみましょうか。「黙れパソコン!」フォントレンダリングは、デザインだけの問題ではないのです。美しい文字は読みやすいのですから。
残念なのは、こんなアイデアが出せるほどコンピュータやクロス・プラットフォームの違いなどについて詳しい広告制作者の方がいないのではないかと言うことです。毎日、タイポグラフィーを破壊するPCに苦悩しているウェブデザイナーや、読みやすさについて真剣に考えるユーザビリティー神経質な人間にとっては、一番に頭に思い浮かぶ話ではあるのですが。私でよければ、このCM、flashアニメにしてアップル社のために作って差し上げたいくらいです。100分の1以下のコストで、100倍以上の説得力、、いかがでしょう。
日本ではちょっとやりすぎ?考えてみてください!
もし、このCMが日本ではやりすぎだというのでしたら、こちらをご覧下さい。ユーモアに関して言えば、日本人にはもはやタブーなどないのです。レイザーラモンHGは、ハードコア・ゲイのキャラクターでタブーを乗り越え、全国的な人気を集めました。こちらのエピソード、ご存知の方も多いでしょうが、HG氏がYahoo! Japanの本社で自分をマスコットとして雇って欲しいと願い出た時のものです。ビジネスにおいては保守的なことで知られるこの日本で、止まることを知らない氏の猛進振りは印象的です。